CIA実務者インタビュー
【vol.2】内部監査で重要なコミュニケーションの「軽さ」
成繁 新治さん
楽天株式会社 内部監査部 内部監査課 課長
- CIA(公認内部監査人)合格時期:2007年11月受験、2008年1月内部監査人登録
- 学習期間:3ヵ月ほど
- ご経歴:
東京大学大学院農学生命科学研究科修了。株式会社中央経済社旬刊経理情報編集部、独立系コンサルティング会社を経て、2009年より現職。
内部監査で重要なコミュニケーションの「軽さ」
CIA(公認内部監査人)実務者インタビューの第二弾として、楽天株式会社の成繁さんにインタビューをさせていただきます。
2007年に独立系コンサルティング会社に転職してから内部監査に携わり、10年以上の業務経験を持つ成繁さん。現在はさまざまなインターネットサービスを展開する楽天株式会社の内部監査部門に在籍し、監査チームのマネジメントを中心に行っておられます。「相手がオープンに話せるコミュニケーションの『軽さ』」をモットーに、チームメンバーと楽天らしい監査のあり方について、率直な考えを語っていただきました。
記事内容はインタビュー当時のもので現在は異なる場合があります。予めご了承ください。
内部監査は知的好奇心を満たせる仕事
内部監査を目指したきっかけを教えてください
当時は、公認会計士の方々とお話する機会も多く、広く「監査」という仕事が知的好奇心を刺激してくれるものだと感じていました。その後、企業内における「監査」、つまり内部監査という仕事を知り、内部監査に関する特集記事なんかを企画して(笑)、少しずつその魅力に取り込まれて行ったように思います。
もともと私が出版社を選んだのも、自分なりの好奇心を満たせる仕事というのが理由でした。実際に内部監査に携わるようになってからも、特定領域に限定されず、幅広い分野について知識を蓄えて、それを使って仕事ができています。まさに天職のような仕事だと感じました。
10年以上にわたって内部監査に従事
内部監査に携わるようになったのはいつからですか?
ちょうど会社立ち上げのタイミングで、出版社時代に知り合った公認会計士が代表を務めるということもあって、運良くキャリアチェンジをする機会をものにすることができました。この会社で、ベテランの公認会計士やコンサルタントに囲まれながら経験を積ませていただきました。
2009年には楽天株式会社に転職し、そこから10年以上にわたってずっと内部監査部門に在籍しています。入社後、まずJ-SOXの評価業務に携わり、その後は本社における内部監査業務もカバーしながら、子会社である楽天Edy株式会社や楽天トラベル株式会社(現在は楽天株式会社)の監査責任者を務めました。2017年からは本社がメインという形に戻って今に至ります。
現在の業務は主に監査チームのマネジメントで、現場に行って監査作業を行うことは徐々に少なくなってきています。インタビューを行うことはありますが、それもメンバーに任せるところが増えました。なので、メンバーが実施した監査のレビューや、監査手続きや監査項目へのアドバイスが中心です。
個人的には監査人は一生現場で監査作業を行うのがいいと思っているので、マネジメントに専念することにはもどかしさやキャリアの不安を感じることもあります。最近は、データ分析などの面でテクノロジーが大きく進化して、監査がよりバリューを出せる環境が整ってきています。マネジメントに専念することで、チームで大きな仕事を達成することができますが、一方で、時代に取り残されるのではないか、そんな心境が同居しています。
資格は信頼を得るためのツール
CIA(公認内部監査人)を取得した理由は何ですか?
2007年11月の試験で全4科目(現在は全3科目)を受験して合格しました。コンサルティング会社に在籍していた頃で、CIAを取得するためにがんばって勉強しました。
CIAの取得を目指したのは、周りに公認会計士が多くいる中で、当時の自分には何もなかったからです。コンサルティングにおいて信頼を得るという意味でも、名刺に資格を書いておきたかったというのもありました。
公認会計士はハードルが高く時間がかかるので、比較的目指しやすいCIAのほうを選びました。ちょうど中小企業診断士の勉強もしていましたが、重複している分野があったので効率良く学習ができました。
CIAで身に付いた監査人特有の価値観
CIAの学習を通じて得られたメリットは?
もともと編集の仕事をやっていたこともあり、多くのビジネス書や実務書を読んでいたので、いわゆる試験勉強という形で特別なことをやったわけではありません。試験対策としては、予備校のテキストは要点が簡潔にまとめられていてわかりやすいと思いますが、定番物のテキストや参考書をいろいろな分野で読んで、より専門的な体系立った知識を身に付けることも大事だと考えています。
また、IPPFはCIAの学習を通じてでないと学ぶことが難しい分野だと思います。IPPFは内部監査の実務における基準となるフレームワークですが、監査人特有の考え方や価値観を身に付けられたのは、CIAの学習における最大のメリットでした。
内部監査で欠かせないIPPFの理解
採用や昇格においてCIAを重視していますか?
資格取得の強制はしていませんが、内部監査の業務において継続的に高い価値を発揮するためには、IPPFの内容を頭に入れて行動に移せることが大切だと考えています。チームメンバーには、IPPFを引き合いに出しながら、業務で直面する実務問題に関連した質問をすることもあります。時には、内部監査のミッション、監査人の資質といった若干青臭いようなテーマで意見交換したりします。それがきっかけで資格の勉強を始めたメンバーも出てきています。自発的にこういった取り組みを始めてくれるのは、非常に嬉しいですね。
大切なコミュニケーションの「軽さ」
内部監査に必要なスキルは?
知識面ではまさにCIAの試験分野が当てはまると思いますが、経営全般や法律も含めて、監査業務に必要な知識分野は一通り身に付けてほしいですね。それをベースにしつつ、会社に関する制度を1つ1つきちんと理解することが欠かせないと思っています。
それ以外には、ソフトスキル面でコミュニケーション能力もとても大切だと考えています。監査なので厳しい指摘をすることもありますが、インタビューにおいて相手がオープンに話せる雰囲気を意識して作れるなど、コミュニケーションの「軽さ」のようなものを最近はよく求めています。
とくに弊社のようなネットサービスの会社では、素早くサービスを提供し、それを継続的に改善していきます。現場は常に物事が動いていて、オペレーションや、さまざまな管理方法、ツールも常にアップデートしています。監査する側としても、その動きに合わせてコミュニケーションを取っていかなければなりません。
監査の指摘にきちんと対応して組織をより健全な形に持っていくためにも、相手のことを理解して、わたしたちの話を聞いてもらえる関係性をいかに作るかというのは、とても大切なことだと考えています。
今後の課題はガバナンス教育の充実
内部監査部門において感じている課題は?
個別の監査を通じて得られた指摘事項の報告は行っていますが、その背景となる会社が抱えている課題や、それを監査部門がどういう考えで抽出しているのかというところまでは、あまり発信ができていません。そのため、個別的な対処に終始してしまっているのではないかと、課題に感じています。
内部監査部門が体系的教育を行う必要性
ガバナンス教育に関して貴社で行っている施策は?
コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の制定を受けて、弊社では年1, 2回、取締役会の開催にあわせて、ガバナンスに関するディスカッションを行うようになりました。
例えば、内部通報制度やインシデント管理、グローバル経理体制に関する話だったり、最近の他社不祥事のトレンドに関する情報共有だったり。個々のトピックごとに意義あるディスカッションができていると思います。
ただ、ガバナンスに関する理解の仕方が統一されていないということも感じています。もちろん弊社にも大きな企業理念やコンセプトがあり、それに基づく規程があるわけですが、それを実際にルールを運用する人たちが十分に理解できておらず、経営と現場の共通理解が持てていないと感じることもあります。
経営が考えるガバナンスの方針はどうなっているか。そうした方針を具体的な行動に落とし込むとどういうルールになるのか。監査をしていると、個別のルールにばかり注目しがちなのですが、この方針と具体的なルールの整合性がもっと意識されてよいと考えています。
監査活動をする中で、ルールの目的や背景といったことを説明することがあります。監査人にしてみると、ごく常識的なことでも、意外に目的まで理解していなかったりするケースがあります。目的を理解すると、「じゃあ、こういうやり方でもいいのでは?_」と、現場の人自らやり方自体の改善に進むこともありました。こういった取り組みをより促進するうえでも、もっと体系立った教育のような形で、内部監査部門が発信していく必要性、意義を感じています。
ガバナンスが効けば業務効率は上がる
日本企業全般に言えることかもしれませんが、ガバナンスが事業運営にとってブレーキになるという思い込みが強いような気がします。「攻めのガバナンス」とは言いますが、事業側の人はまだマイナスに捉えてしまっているところがあると思います。
ガバナンスが効いていると仕事が進めやすくなり、業務効率の面でもむしろプラスに働きますし、そもそもプラスにする意味合いも含めてガバナンスは存在しています。内部監査部門として、事業側の人の誤解を解いてガバナンスについて正しく理解してもらうための活動に、今後はもっと注力していきたいと考えています。
編集後記
内部監査人のスキルや経験についてのお考えだけでなく、内部監査部門が「会社全体へガバナンス教育を浸透させていく必要性」についてもお話いただき、より広い視点で内部監査というものを見つめるきっかけとなりました。
落ち着いた雰囲気でありながら、お仕事に対する熱い信念・信条をもってお話される成繁さんのギャップが印象的でした。